超短編小説and雑文・morimorispyのブログ

ちょっと、短編小説らしきものを書いてます。日々の雑文も書いてます。

東京の頃その1(二話完結)・短編小説

紀香は朝、必ず、軽い安定剤を飲む。テレビでは、地下鉄にサリンをまいたテロ事件が放映されていた。

「ああ、今日、バイト行かなくてよかった。あぶない、あぶない。」と紀香は言った。彼女の静江は何か、その物言いが静江の道徳感情に著しく反したため、無言で返した。

「静江ちゃん、怒ってない?」と紀香は聞いた。

「別に。。。」

「ああ、怒ってる。」

「怒ってないよ。」と静江は優しく答えた。

「なんかいやな気分だったでしょ。」

と気を使って紀香は、テレビのスイッチを消した。静江はもっと事件の様子を見たかったのだが。

「堤防行こうか?」

「うん。」と静江は言った。私はいつも紀香の軽く言いなりだと、思った。紀香は四年生の大学生、そして、バイセクシャルだった。

静江は紀香の煮え切らない態度に、頭に来ることもあった。静江はヘテロだった。ヘテロだが、紀香を愛していた。自分でも、この関係が良くわからない。紀香に前に聞いても、

「私だってわからないよ。」と言った。

「自分で考えてみ。」

 

二人で手をつないで多摩川の堤防に出た。冷たい風がヒューっと紀香のおでこの前髪を撫でた。

「ああ、いい空気、気分の頂点。」と紀香は言った。

「私さ、世の中って悪くなる一方だと思うの。」

「覚えているといいよ。1995年を」

「なんで?」

「私も世の中が悪くなると思うから。これから。どんどん。そう感じる。」

「覚えておく。」

それから、21年が過ぎた。

静江は平凡な主婦になり、紀香は東京の大学の先生になった。

 

(続く)