「ヒューマン・ファクター」を読了して
グレアム・グリーンの小説に初めて挑戦するとあって、いつもの小説を読む速度より、時間を丁寧に使って読んだが、とても、面白かった。
あらすじは、もしかして、これから読む人にとっては言ってしまうと台無しになるだろうから、言わないでおきます。でも、やはり、イギリスの階級社会の厳しさというのは背景にあります。
スパイ云々というより、そちらの方をグレアム・グリーンは描きたかったのかもしれない。
他のスパイ小説との違いは、確固とした善玉がいない。誰もが大小の欠点というか、大小の問題を抱えている。
無垢な人はいますが、その無垢さでは自分自身を救えない、というところ。
そこが哀しい。哀しいと言えば、この小説、冒頭からして哀しい。哀しい破局を予感させる。そこは作者の技巧だろうけども。
確固とした善玉がいないから、全体の色調は、哀しい、そして、残酷だ。
だからこそ、なんというか、一層、人間の道徳観念が敗北にきっしていて、厳しい。
本当に厳しい小説だ。
以上です。