嘘と女・短編小説
George Michael - Father Figure
「私、帰んないと。」とまいさんが言った。
「少し・・・俺の部屋によらないかい?少し。」
まいさんは、近くのベンチに座った。ジーンズをはいた足を組んだ。私の申し出に面食らったのかもしれなかった。私もベンチに座った。まいさんの横顔を見守った。まいさんは何をか熟考しているようだった。
まいさんは首を縦に振り、「いいよ。行こう。」と言った。覚悟を決めたというように。私は自分が悪辣なことをしていると思った。まいさんと私は公園近くの私のアパートへ、向かった。
「やっぱり、だめかな、大学へ行くという考え。」
日本中を貧困が蝕んでいた。恐ろしく早いスピードで。私やまいさんはその貧困の一部だった。もはや、大学は私たちにとって過ぎたぜいたく品だった。だが、それを言うのはためらわれた。
「努力すれば、なんだってかなうと思う。」と私は言った。それは嘘だった。
「さっきはゴメン。」謝罪は本当だった。
まいさんが歩きながら、私の左手を握ってきた。
「ウソでもいいから、そう言ってくれてうれしい。それが中年の優しさなのかな。お父さんみたい。」と、まいさんは言った。お互いが笑った。
私のアパートに近づいてきた。腹の底から鈍痛が湧き上がった。