孤独の絶滅その2・短編小説
私はイエデンの受話器を取った。
「もしもし」と私は緊張して、言った。イエデンの方にかけてくるなど、たまの母の説教か、セールスの電話での勧誘ぐらいだった。だが、期待があった。まいさんではないのかという。
「もしもし、まいです。」暗く疲れた声だった。が、私はあまりの安堵と喜びのために躍り上がりたがったが、その喜びを隠すため、冷静さを装った。
「あ、まいさん。」
まいさんは沈黙した。そうして、ようやく、口を開いた。
「そうだよ。あのさ、これから行っていいかな?そっち」
「いいよ。」
「あのさ、お願いがあるんだけれど、」
「なに、」
「あのさ、お金貸してほしいんだけれど。」
今度は、私の方で沈黙した。間をおいて言った。
「いくら?」
「に・」
「に?」
「うん、二万円。」
私は躊躇したが、まいさんに会いたいがため、私にとってはかなりの大金だったが、
貸すことに決めた。しかし、背筋に不快な気分が走った。いろいろなことを考え、想定した。まいさんがとんでもない悪女で、私をなめて馬鹿にして、いい金づるにしてやろうと思っているのかとか、そういうことを。
「いいよ。」
「ありがとう、じゃあ、行くね。」とまいさんが電話を切った。
私は緊張から解かれたのと懐疑でふーっと息をついた。
私が利用されているとしたら、それは滑稽でよくある話ではないか。しかも、二万円などという金を。けれども、会いたかった。その欲望に私は負けたことを認識した。私は私がまいさんに恋をしているということをはっきりと、この時知った。