孤独の絶滅その1・短編小説
その後、まいさんから連絡はなかった。メールでも返事は帰ってこず、ローソンの朝番にも、まいさんはいなかった。
思い切って、ローソンの店長に聞いてみた。
「あの、スレンダーな店員の方、おやめになったのですか?」
それから店長が答えるのを待った。その合間が恐ろしかった。もし、やめたというのであれば、私には探す手立てはない。よくある恋歌のように、面影を街で見かけて、違った人だとがっかりしたりするのだろうか。そこまでの愛情なのかは自分でもわからなかった。
まいさんと直接に話をして、同類の友のように感じたが、性的な関係を持つと、ずっと意識してこなかった、自分は男である。というどうしようもない事実に気付かずにはいられなかった。性的な関係を経ると、もしその女性が欲しいなら、男として恥ずかしくないだけの給金はもらっているのか、まして、まいさんの念願だという通信制の大学に行かせられるのかなどと、ぼんやりと、だが、重く、一人で考えた。
「ああ、まいさんかい?休暇取ってるんだ。四日ほどね、」
もっと、踏み込んで聞いてみた。
「戻られるんですか?」
「もちろんだよ。惚れた?」
「いや、いや、ちょっと、気になって。」
「そうですか、今日もおにぎり買ってくださいよ。」と、店長は気さくに言った。
今日が四日目だった。水曜日、仕事から帰ると、思い切って、メールをしようと思った。丁寧なメールをできるだけ心がけよう。滑稽にならない程度に。
するとイエデンに電話がかかってきた。
生活と思想・雑文
昔、仲のいい学者がいたのだが、私が田舎に帰るとしばらくすると、音信が途絶えた。「音信が途絶えた」と書くとカッコイイが、要は、電話番号を変えられたということだ。
田舎では本当に親に申し訳ないが、帰ってしばらくは、プラプラしていた。
それで、今、地元に友達がいろいろいるのだが、昔はそうというわけではなくて、東京の友達に、いろいろ電話をかけて、迷惑をかけた。
思想の違いとか、変化とか転向とか、色々、仲たがいした思想学者や活動家の話を聞いてはいたが、私の場合は、その学者に、関係を切られたのは、要は私の「電話がうざい」ということだろう。その頃学者に彼女ができたし。仕事も忙しいし。
この「電話がうざい」というのは、学者の私への個人的な友情関係の粛清の理由だったが、今考えるのは「電話がうざい」というのは「思想」だろうか、或いは、「思想」ではなく「生活」だろうかということだ。
「電話がうざい」とか「あいつが田舎者だから、嫌い」とか「都会人を気取っているから、嫌い」とか「料理がうまいから尊敬する」とか、こういった軋轢も友情も、哲学や思想が云々という軋轢もあるだろうが、「思想」であり、また「生活」であると、最近、思えてきた。
なにも外国や日本の難しい本を読んで、それが前提として、議論が成り立つという手続きを踏まないと、思想の対決にならない。というわけではなくて、「あいつ、何となく、嫌い。」とか「かっこいいから好き」とかも、立派な「思想」の始まりであり、また、一方で、「生活」の始まりであり、議論の根っこではないかと、昔のことを考えては思う。状況の分析から始まって「ヘーゲルがうんぬん」とか「フロイトとラカンが云々」とかいろいろ、有るけれども、その解釈の違いや意見の違いには「立場」や「頭の良し悪し」があるけれども、やはり、例えば「電話がうざい」というのは「生活」の根本であり、かつ「思想」の根本であると思った。
政治も同様で、なにも、デモ行ったから、「俺は政治に参加した。」と威張るほどのものでもないだろう。威張ってもいいが。「何となく嫌い・好き」というのも、立派な政治の始まりだと思う。
昔のことを反省している。
今日あったこと、思ったこと・雑文
・今日は、いまさっき、競馬の師匠が私に金を再び借りに来た。再び返してきてくれることを祈るばかり。
・県の文学賞にこの前終わった小説を膨らませて、応募することに決めた。
趣味は趣味だが、何か目標がないと上達はしないだろう、と思ったから。絶対受賞したいとかではなくて、自分の成果を友人やブログ以外のところで、どれほどのものなのか、試したいから。若いころのように小説家になりたい、とは思わないが。
趣味もやはり、ある程度、力を入れないと、何が自分にできなくて、何が自分にできるのかということが解らなくなる。命をかけてブログをやるとか、一生懸命やるとか言わないが、先のブログに書いたが、自分に評論や、エッセイの能力が備わっていないことが解ったのが、ブログを始めての一番の収穫だった。やはり、やらないと分からないことがある。頭でわかったと思ってもだめだな、と思う。
ここまでで気づいたこと・雑文
1、twitterもmixiも2週間ぐらいで辞めた私だが、ブログは6か月ぐらい続いている。めでたい。
2、ブログも趣味は趣味だけど、ある程度は頑張らないと、反応がさみしいものになる。
3、意外と自分が思う以上に、エッセイは、下手だった。評論も下手だ。だから雑文としている。
4、反応があまりというか、全くない時もある。そういう時は、開き直ることも重要だとおもった。
5、小説を書いていたが、意外と反応が良かった。HAPPYENDにしようかと最初の構想では思ったが、意外と切ないというか微妙に暗い方が受けた節もある。世相を反映しているのか。日本人は基本的に哀しい話が好きだと私は見ている。
6、正直、ブログの機能があまりよくわかっていないので、ブログの本を買おうと思う。
7、色々なブログがあり、生きるヒントになったり、思いがけない刺激を受けた。
8、当初は文芸評論家みたいな難解なことを書いてみたいと思っていたが、自分には出来ないことがわかった。これが一番の収穫か。自分の頭の程度を知る。
9、人の前に文章をさらすということは結構緊張感を強いられる、と思った。いまさらだが。
アパートで。その2(このシリーズ・最終回)・短編小説
まいさんが、抱きしめられながら言った。
「弟の遺体は私が確認したの。母にはさせられなかった。人間てね、モロイよ。ほんとにモロイの。特に小さな子は。」
そういうと、まいさんは服を脱ぎ始めた。すると、まいさんが私の首に両手を回し、覆いかぶさってきた。私は柔らかな重力の重みを感じ、自分の情欲に開き直った。
二人で長く互いの体をむさぼりあった。まいさんは私を抱きしめながら、私を受け入れた。しばらくして、ついに、私は長い長い射精を床に落とした。私たちは黙りあった。静かな時が流れた。
まいさんはおもむろに立つと、服を着はじめた。「見ててもいいよ。」細身の体の胸にブラをつけるところだった。
「いいよ。」と私は体ごと後ろを向いた。私にその資格がないように思われた。
着替え終えるとまいさんは「帰る」と言った。
「これって、一時の快楽なのかな。?暇つぶしの。」とまいさんは言った。
そうではないと言いたかったが、自信がなかった。月給12万5千円の私に何ができるだろう。
私は立ち上がり、まいさんを後ろから抱きしめた。私はまいさんをものにしたいと感じた。
「俺もがんばるから。」私はよくわからないことを言った。遅すぎるかもしれない。でも、このチャンスを失いたくはなかった。
もっと、厳しく荒々しい労働の世界に再び戻る決意をした。そしたらいずれは・・・
後ろから抱きしめながら、「俺がまいさんの生きる意味になりたい。」と浅知恵を出して言った。まいさんは私の手を振りほどき、泣きながら小走りに部屋を去った。
それから、しばらく何をしていいか、私にはわからなかった。
自分への嫌悪で私は泣きに泣いた。
(終わり)
アパートで。その1・短編小説
Tears In Heaven [日本語訳付き] エリック・クラプトン
部屋へと通じるアパートの階段を上がった。私の部屋は二階にあった。まいさんも後からついてきた。
コンクリートの階段だった。
「雪が降ると、凍ってこの階段、危ないんだよ。」と、まいさんに聞こえるようにいった。
まいさんは黙って、反応がなかった。
私は部屋のドアのかぎを開けた。私が先に入った。
「どうぞ、どうぞ。」と私は言った。まいさんは部屋の台所を見て、
「汚いんだけど、男の人って、皆、これくらいだよね。」と、少し笑った。
「あ、ローソンの袋がいっぱい。カップヌードルがいっぱい。ローソンで買ったやつなの?全部。ローソンマン(笑)」とまいさんは、下手なギャグを飛ばした。
まいさんはローソンの店員だったから、私は言葉を返して、
「ローソンガール(笑)。」と返した。まいさんは「しらけた。」と言った。その後に「ウソだよ。」と付け加えてくれた。
私は居間に入り、コタツのスイッチとエアコンのリモコンのスイッチを入れた。
まいさんは何も言わずに、コタツに足を入れて、座った。私もそうした。コタツで向かい合った。
「なにか、音楽でも聞くかい?」と私は言った。
「いい、このままでいい。ああ、クラプトン、ある?」
今の若い人は、「クラプトン」と言うのか、と私は思った。独特の日本語的な発音だった。台所洗剤の名前か何かそういうものに聞こえた。
「古いやつならある。」と私は言った。
「『tears in heaven』聞きたい。」とまいさんが言った。
「youtubeで。」と、まいさんが付け加えた。私はそれに気づかなかった。コタツの脇のパソコンを起動させた。
「そうか、そうか。」と、私は自分の歳を意識し、現在の若い人たちの普通の発想力がなく、それに、まいさんは気を悪くしないか、とおもった。
「気づかなかったよ。」と、パソコンの遅い起動を待った。その間、沈黙が続いた。起動を終えると、私は、ネットにつないで、youtubeで「tears in heaven」を探した。
曲が流れ始めた。
まいさんは、「弟を思い出す。」とぽつりと言った。
「弟さんは何してるの?」
「津波で死んだの。」
「そうか。」私は言い、言葉に詰まった。
「こっちに避難してきたの?」と、私は言った。
「もう、こっちが生活場だよ。」とまいさんは言った。
でも、まいさんはもう泣いていた。
この女がいとおしい。と思った。が、情欲が高まったことを一方で恥ずかしい、と感じた。
まいさんに寄り添い、横から抱きしめた。まいさんの髪の匂いがした。
まいさんが、一言、言った。
「私、大した女じゃないから。」
私は切なくなり、まいさんをより強く抱きしめた。まいさんの体の厚みを感じた。
最近、元気が出ない。・雑文
最近、元気が出ない。というより無気力。土曜日は映画でも見に行こう。たまには邦画でもいいな。しかも現代映画、現代映画ってなんだろう。それを見に行ってくる。