超短編小説and雑文・morimorispyのブログ

ちょっと、短編小説らしきものを書いてます。日々の雑文も書いてます。

孤独の絶滅その7(このシリーズ最終回)・短編小説

 私は、格闘技の覚えがあった。昔、とあるカルト集団に入って,そこで格闘技を教え込まれた。「戦士」として。

 格技を幾度か実践する機会があった。若いころ。若さが過ぎると、悪夢からの寝覚めた後のように、私はそれまでの私の行状に嫌悪しか感じられなくなった。いろいろ苦労して、私はそのカルトを抜けた。抜け出ることに成功した。

 それからの私は過去を振り返ることもなく、その過去の抜け殻として、生きてきた。

今、女が恐怖で泣いていた。地方独特の「半封建的な残滓」のために。ドアの外では、「半封建的な残滓」の具体化されたような主体の男が、怒鳴っていた。それはよく言う現代のネオリベラリズムの地方の結果かもしれず、あるいは、江戸時代から続く「半封建的な残滓」の具象かもしれなかった。多分、警察はこの事態の解決に無力だろうと思われた。女を渡すことも考えた。だが、なぜか、女を救うというより、女を渡したくなかった。女への同情がそうさせたのかもしれなかったし、私自身が昔、関わった「血と暴力」の世界への私なりの清算のような気がした。

おもむろに私は立ち上がり、何があってもいいようにと置いていた、部屋の金属バットを持つと、私は玄関へと向かった。ドアを開けると、髪を金髪に染めた、若い知性の低そうな男が、何をか怒鳴っていた。男が部屋へと入ろうとした瞬間、私は剣道の要領で、バットを男に数回振り下ろした。

男は倒れた。血は流してはいなかった。男は右肩をおさえ、部屋を逃げ出した。

「覚えてろよ。」という大声が外からした。次に、クルマの急発進した音がした。

女は、まいさんは、居間の戸をあけ、その様子を見守っていた。

「もう、帰った方がいい。」と私は言った。

まいさんは、「うん」とうなずいて、部屋から去った。

明日は映画を見に行く日だった。キャンセルしようとは思わなかった。

(終わり)

孤独の絶滅その6・短編小説

 アパートに帰ると、木曜日の山形映画祭と広志先輩のことを考えた。いずれ、丸川創大議員が広志先輩を衆議院の後継候補に指名するという噂だった。広志先輩が何か遠い存在へと感じられた。自分はただのフリーターにすぎない。もはや、身分が違うと言ってもいい。一方で広志先輩はある意味、度を越した映画ファンだった。高校の頃から頭が良かったが、当時は、映画を見たいがために、映画館がいっぱいある東京の大学へと進学したがっていたが、両親の説得によって、仙台の旧帝大に泣く泣く入学したが、東北の映画首都たる山形市へと足を頻繁に伸ばし、マイナーな映画にも造詣が深くなった。

 

まいさんからはまだ、連絡がなかった。私が騙されているのかもという疑いに捉われることもあったが、恋していたから、それ以上の詮索が進まなかった。今日の朝もまいさんはローソンにいなかった。仕事の帰りに店長に聞くと、来週から復帰するとだけ、店長は不機嫌そうに言っていた。

イエデンが鳴った。受話器を取るとまいさんだった。

「お金、都合ついたから今行っていい?」

「おお、大歓迎、大歓迎。」

「じゃあ、今から行くから。」

「待ってるから。」

気持ちがわくわくしてきた。まいさんと会えるというワクワク感と映画を山形まで見に行くというワクワク感は違っていた。だが、やはり、わくわくした。今夜こそ、まいさんの電話番号と住まいががどこになるのかを聞いてみようと思った。

 

しばらくして、ドアベルが鳴った。ドアを開けると、まいさんだった。

「上がっていい?」まいさんの口元から白い息が上がっていた。あざはだいぶ薄くなったが、まだ残っていた。

「どうぞ、寒かったでしょ。」

お互い、いつものようにコタツに向かい合って座った。まいさんがバックから、茶色い封筒を取り出し私に渡した。

「どうも、ありがとうございました。」と、まいさんが言った。

私は封筒の中身を空け、二万円入っていることを確認し、財布にしまった。

明日、木曜日に友達と映画を見に行くことなどを話した。自分のことは明かさないでまいさんの暮らしのことなどを聞いた。会話を続けた。

「まいさんは映画は何が好き?」

ナウシカ」とまいさんが言った。

「でも漫画のナウシカの方がもっと好きだよ。」

「そうか、でも、なんか、漫画のナウシカって最後の方、残酷じゃない?」

「そうかな?感動したけどな。」とまいさん。

「私もナウシカみたいになりたい。この世界の。」と、まいさんは続けた。

「メシア?それは無理だと思う。」

「なんていうか、ちょっとしたナウシカ。何か・・・なんでもいいから、世界から必要とされたい。」

「そうか、そうか。」

すると、ドアをどんどんどんと乱暴にノックする音がした。

「ああ、たーちゃんかも。」と、まいさんはおびえた声と目つきになった。

「たーちゃんって?」

「この前言った、私の元の旦那」

また、どんどんどんと再び乱暴に誰かが私の部屋のドアをノックした。まいさんの顔は今にも泣きそうだった。

「まい、おれだ、おれだ。タカユキだ。」

まいさんは、皮肉な形で、その男から必要とされていた。

孤独の絶滅その5・短編小説


アレクセイ・ゲルマン監督『神々のたそがれ』予告編

私が働いているパン屋は、駅前の市街地にあった。「NPO法人夢工場・エンゼルパン」というのがその名前だった。パン工場と売り場兼喫茶店に分かれていた。私は主に売り場と喫茶店で働いていた。

このパン屋さんの画期的なところは、障害者と健常者が共に働き、たいていの授産施設とは違って、障害者も法定賃金をもらっているところだった。障害者で雇用されているのは主に軽い知的の方と軽い精神の障害を持つ方で、障害者の労働時間は5時間に設定されていた。

 しかし、バイトの私の賃金は相当安い。なぜなら、仕事がイージーなものだったからだった。私はといえば気楽に働けるこのパン屋を気に入っていた。

 8:00の今日の朝礼は普段は姿を見せない、理事長も来ていた。理事長が朝礼で言った。異例のことだった。

「今日は、偉い人が来ます。テレビも取材に来ます。でも、みなさん、心配せずに、いつも通りやってください。」と理事長はにこやかに言った。

11:00になると、地元の国会議員の先生とそれを取り巻く色々な人が来ていた。これからの障害者の雇用環境のモデルとして、このパン屋を視察に来たのだ。

 私も若干緊張した。理事長は売り場で議員たちがコーヒーを飲む予定だと言っていた。コーヒーはなるべく障害者に運ばせてほしいとの、理事長のリクエストがあった。

見知った地元の議員の顔が議員団の中心にあった。丸川創大議員だった。保守党の中心議員だと知られていた。私はそれより気になる顔があった。丸川創大議員の息子で県会議員を務める丸川広志議員の姿があった。丸川広志は私の高校時代の一年上の先輩だった。同じ映画サークルに高校時代所属していた。

 私が都落ちして、福島に帰ってきたのを聞いて、ただ一人、昔の友達の中で私に会いに来てくれた、高校の先輩だった。今も、丸川広志県会議員とはたまに映画を見に行く仲であった。

 丸川創大議員がコーヒーを飲んでいる頃、レジにいた私に、丸川先輩は、話しかけてきた。

「いや、ご苦労さん。」

「先輩こそ、大変ですね。」

私たちはにやにやしあった。私と先輩はどこか疑似同性愛的な友情というか腐れ縁で結ばれていた。

「コーヒー、飲みますか?」と私は言った。

「そういうのはいいから。知ってた?今度、山形に地方文化事業の視察に日曜日行くんだよ。オヤジと。山形映画祭を視察に。」

「はあ、それはいいですね。」

アレクセイ・ゲルマンの新作が見れるんだよ。keiも来ない?」

「ああ、ネットで知っていたんですけれど。」

「行こうよ。ただになるし。」

アレクセイ・ゲルマンとは、世紀をまたぐロシアの映画の巨匠だった。タルコフスキーをしのぐという噂だった。

食指が動いた。

「いつやるんですか?」

「木曜日。行く?」

「行きます。行きます。仕事休みます。」

丸川創大が、帰るころになった。先輩も、後を追った。

「木曜日、駅の西口で会おう。8:00に。」

「わかりました。」

お互いにやにやして先輩と議員団は去った。久しぶりの出来事にわくわくした。

孤独の絶滅その4・短編小説

居間で、私とまいさんはコタツを挟んで、向かい合った。

まいさんはしばらく泣いていて、涙をハンカチで拭いたり、ティッシュで鼻をかんだりしていた。

「殴られたの。Keiさんとやっちゃった日に。家に帰ったら夫がいたの。」

「え、結婚してたの?」                          

「そうじゃなくて前の旦那。別れたの。でも、付きまとってくるの。」

「別れたって、なんで。」と言って、そのまま話すのをやめた。暴力と血が支配する世界も確かにこの平和な日本でもあった。私もまた、そういう世界を知らないわけではなかった。

「警察には、言ったの?」

「言ったけど、前に。でも、余計に殴られた。」

「君の前の旦那は、何をして働いているの?」

「無職だよ。ほんとに甲斐性なしでね。地震が起きてから一緒に避難して来たんだけれど、全く働く気がなくなってしまったの。今では、競馬とかパチンコとか、そういういろいろに溺れてしまって、昔とは全然・・・」と、まいさんはまた泣いた。

「金をせびりにくるんだ?」

「そうなの東電からの金も使い果たしてしまって。私の母さえ殴るのよ。この前もそう。帰ってきたら、母が殴られてて、もう、悔しくて、悔しくて。」

「そうか。」どうしようもなくダークな世界の話を聞いて、私は嫌な気分になった。だが、暴力が支配する世界なら私も知っていた。暴力の質は違っていたが。

「二万、いい?必ず返す。」

私は、部屋の隅に置いてあった携帯金庫から、非常用にとっておいた二万円を取り出した。コタツにまたはいるとまいさんに二万円を差し出した。まいさんはお金か私かに、手を合わせて、「ありがとうございます。すみません。」と言った。

「keiさん、いい人だ。」とまいさんは言った。

「まいさんは仮設住宅に?」聞きにくいことだが訊いてみた。

「違うよ。もう出たよ。」

「そうか。」私は阿呆のように「そうか」を連発した。あまり知りたい世界ではなかった。

「私、仕事に行かなくちゃ。ごめんね。」

「仕事って、何してるの。ローソンは朝番だけでしょ。」

「スナックでお手伝いしてるの。」

私はそれを聞いて、非常にムカついてきた。まいさんに。地震原発はまいさんの家族を押しつぶしてしまった。木端微塵に。ムカついた一方で、健気に生きるまいさんに情が本格的に移った。

まいさんはコタツから立ち上がった。私が作ったコーヒーも飲まずに。まだ熱いままにして。

私も立ち上がった。まいさんが両手を広げ、抱きしめて、という合図をした。

私とまいさんは抱きしめ合った。。

「気を付けて、まいさん。」

「お金、今度の土曜日に返す。連絡します。」とまいさんは私の胸に耳を押し付けて言った。

「まいさん、愛してる。」と私は思わず、無意識のまま、口にした。私は自分に狼狽した。

「ありがとう。Keiさん。」と予測しない言葉が返ってきた。

「じゃあね。」

まいさんが去ると、私はまいさんの飲みかけのコーヒーをぐいっと、一飲みした。コーヒーは苦く、それでいて、生ぬるかった。

「アクトレス」を見てきた・雑文


映画「アクトレス ~女たちの舞台~」予告編  #Clouds of Sils Maria #movie

本命「恋人たち」

対抗「スターウォーズ

中穴「アクトレス」

みたいな感じだったが、寝過ごしてしまい、「アクトレス」しか見れないことに。

映画館まで歩いていく。

結構、面白かった。私たちのいる文化状況が、ある意味で、客観的に最後は理解される。

気鋭の社会学者と若い文芸評論家の「アクトレス」の映画評もあるが、それだすと、ネタバレになるし、理解が引っ張られてしまうので、双方ともにあまりに正しい解釈なので、見る前は忌避した方がいい。まあ、グーグルで調べてくださいよ。

という感じ。

映画の「マクドナルド化」とでもいうのだろうか。その状況への考えさせられる一矢ではあった。

 

孤独の絶滅その3・短編小説

まいさんを私は待った。待つ時間がひどく長い時間に感じ、それでいて期待に膨らみ、なお、猜疑心があるのを否めないという、やや複雑で混乱した心持ちでまいさんを待った。

 まいさんから教えてほしいことがあった。電話番号やまいさんの家がどこにあるかをまいさんがどうやって今まで生きてきて、どうやって、今在るのかを。つまりは、私はまいさんの過去を記憶をも所有したいという、恋し始めた人間の恋した対象にたいする、過去の体験までも記憶までも共有したいという、恋し始めた人間を襲うあの傲慢な情熱というか習性に、私は囚われていた。

 自転車がアパートの前に止まるブレーキの音がした。私はまいさんの自転車であることを期待した。階段を上る音がして、私はせわしない緊張に駆られた。いま、恋していると思われる自分が少し滑稽に思われた。

キンコーンとドアベルが鳴った。私はゆっくりとコタツから立ち上がり、居間の戸をあけ、キッチンとユニットバスに挟まれた狭い廊下を伝い、ドアへと向かった。ドアを開けた。

まいさんは手袋とセーターを着込みその上にうす茶色のコートを羽織っていた。下は、長い丈のスカートにブーツを履いていた。が、私が驚いたのは、まいさんが左目に眼帯をしていたことであり、右の頬には薄黒いあざが広がってるのが嫌でも分かった。

私は反射的に、言った。

「大丈夫?」

まいさんは余計なことを聞かれたという風に、ふくれっ面をして、大丈夫と答えたが、その三秒後に、わっと泣き出した。まいさんの方から、まだブーツを脱いでいないのに、私を抱きしめた。私は嬉しいというより困惑した。

「こんな生活から逃れたい。」と、泣きながらまいさんは嗚咽して言った。

孤独の絶滅その2・短編小説

私はイエデンの受話器を取った。

「もしもし」と私は緊張して、言った。イエデンの方にかけてくるなど、たまの母の説教か、セールスの電話での勧誘ぐらいだった。だが、期待があった。まいさんではないのかという。

「もしもし、まいです。」暗く疲れた声だった。が、私はあまりの安堵と喜びのために躍り上がりたがったが、その喜びを隠すため、冷静さを装った。

「あ、まいさん。」

まいさんは沈黙した。そうして、ようやく、口を開いた。

「そうだよ。あのさ、これから行っていいかな?そっち」

「いいよ。」

「あのさ、お願いがあるんだけれど、」

「なに、」

「あのさ、お金貸してほしいんだけれど。」

今度は、私の方で沈黙した。間をおいて言った。

「いくら?」

「に・」

「に?」

「うん、二万円。」

 私は躊躇したが、まいさんに会いたいがため、私にとってはかなりの大金だったが、

貸すことに決めた。しかし、背筋に不快な気分が走った。いろいろなことを考え、想定した。まいさんがとんでもない悪女で、私をなめて馬鹿にして、いい金づるにしてやろうと思っているのかとか、そういうことを。

「いいよ。」

「ありがとう、じゃあ、行くね。」とまいさんが電話を切った。

私は緊張から解かれたのと懐疑でふーっと息をついた。

私が利用されているとしたら、それは滑稽でよくある話ではないか。しかも、二万円などという金を。けれども、会いたかった。その欲望に私は負けたことを認識した。私は私がまいさんに恋をしているということをはっきりと、この時知った。